側弯症の手術前の説明
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手術前の説明の一例
  1. 【手術の必要性】

    装具による治療を過去に行ってきましたが徐々に側彎の進行が見られ、前回入院時には側彎角度は**度となっています。まだ若干脊柱の成長が残っており、放置すれば今後も進行する可能性があります。脊柱変形が重度になると、体幹変形による美容の問題だけではなく胸郭の変形により呼吸機能障害を生ずる場合があります。これ以上の進行を防止するためには現代医学では手術しか方法がありません。

  2. 【手術の方法】

    全身麻酔で約**cmの切開を背部に加え、背中にチタン合金の金属材料をつっかえ棒として入れて支えます。金属材料のみでは身体を長期にわたって支えることができませんので、腸骨から採取した骨を背中の骨の背側に移植し、骨がひとつの塊になるのを待ちます(約1年間)。この間は自転車運転やスポーツ活動は禁止となります。骨を採取するために骨盤にも10cm前後の切開が必要です。

  3. 【手術の注意点1】

    手術によって脊柱を術前牽引下の状態まで矯正する予定ですが、矯正が強すぎると神経麻痺や腸管麻痺、血管の障害をきたすことがあります。このため、手術中に一時麻酔を覚まし下肢の動きを確認するテストや電気で刺激して脊髄の機能を測定する検査を行います。但し、これらの検査を行っても脊髄麻痺や血管障害を完全に予防できるものではありません。万一麻痺が発生した場合、手術中もしくは手術後直ちに金属材料を抜去し、薬剤治療を行います。内蔵の血管が閉塞した場合は腸閉塞を起こしますので、手術後の絶食や薬剤治療、時には開腹手術が必要な場合もあります。

    これら治療を行っても脊髄麻痺(四肢麻痺・膀胱直腸障害等)や腸管の機能障害が残存する場合が稀にあります。脊椎の手術では100%の安全性は保証できません。副障害の予防や早期発見のためいろいろな対策を取りますが、危険性がゼロではないことをご了承戴く必要があります。

  4. 【手術の注意点2】

    脊柱の矯正後、胸郭形成術を行う予定です。胸郭形成術とは、背中の突出を少なくする手術です。背中の突出は、肋骨が変形して後ろにとび出しているもので、突出した部分の肋骨を一部切除します。この変形はあくまで美容的な観点から追加する手術ですので、出血が予想以上に多い場合などの全身状態が不良な時は、胸郭形成術を行えないことがあります。この場合は、後日あらためて手術するかどうか、御相談することになります。

    この手術の主な合併症は、肺に水や血が貯まること(肺水腫や肺血腫)です。もし、このような合併症がおこった場合は、肺に水や血を抜くためのドレーンとよばれる管を約1週間入れなくてはなりません。手術後におこることもあり、病棟でドレーンを入れる必要があるかもしれません。

  5. 【手術の注意点3】

    手術で骨髄を操作するのでかなりの出血が予想されます。手術前にためた自分の血液および手術中の回収血を使用しますが、それでも不十分な場合には日赤の保存血を使用することもありえます。保存血を使用した場合に肝炎等に感染する可能性があります。感染が万一生じた場合は肝炎の治療を内科で行うこととなります。

  6. 【手術の注意点4】

    術後の細菌感染については極力注意をはらい予防のため適切な抗生物質等を使用しますが、薬によって感染を完全に防止できるものではありません。万一、細菌が感染した場合には固定のために使用した金属を除去することもありえます。細菌感染は手術後短期間に生じることが多いのですが、時に手術後数ヶ月、数年して生じることもあります。

  7. 【手術の注意点5】

    その他、手術に伴う合併症として骨盤採骨部の痛みやしびれ、創周囲の知覚障害、長時間うつ伏せのため圧迫されて生じる皮膚障害、皮膚の下に血が貯まる血腫などがありますが、これらの合併症はいずれも数日〜数ヶ月で軽減する場合が多いようです。

    手術は全身麻酔で行われますが、麻酔についての注意や説明は麻酔科の医師が行います。

  8. 【手術後の見通し】

    経過がよければ手術後2〜3日で歩行、術後2〜3週間で退院となります。退院後は医師の指示に従い定期的な診察が必要です。手術後はギプスやコルセットは不要の見込みですが、手術の状況によって必要となる場合があります。

    手術後長期を経過しても骨がつかない(偽関節)、金属材料が折れたり曲がる、などが生じる場合が稀にあります。この場合、矯正した脊柱が再び曲がり、体幹変形の再発や腰痛の原因になります。また今回手術した部分は矯正が保てていても、手術していない他の部分で脊柱変形が再発してくることがあります。このような場合は、状況に応じて装具による治療を追加したり、時には再手術が必要になります。

以上、今回の側彎症手術における重要な点は説明しましたが、これ以外にも手術に伴う突発的な事故、予想できない合併症等がありえます。また手術中の所見によってはご家族の許諾なく術中の判断で手術術式や治療内容の変更を行う場合があります。担当医師らは合併症が万一生じた場合は、全力をあげて最善の処置を行うことをお約束致します。

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